テキスタイルトレンドと品質対応
2013年春夏テキスタイルトレンドと品質管理のアドバイス(プルミエールビジョン展)
<目次>
1)はじめに:ファッションの捉え方について <ファッションの変化はラセン階段の視点で>
2)2013年春夏テキスタイル傾向 概要
3)2013/SSシーズンの7つのビッグトレンド
4)それぞれの特性、そのイメージ写真、及び品質面での取り扱い上の留意点も加味し、以下に解説します。
5)後記1
6)後記2 (品質管理面からのアドバイス)
はじめに:ファッションの捉え方について <ファッションの変化はラセン階段の視点で>
ラセン階段がファッションの推移する目に見えない姿を見えるようにする装置だ、と考えています。ラセンは上からの視点はただ円を描くのみ、しかし、ヨコの視点から見れば、なん段か登ったり下ったりすれば元の位置より段差が出来ます。
この段差が時間差でその間に世の中は変化します。その変化は時間の経過、人の営み、心理の変化などを意味します。
言い方を変えれば「時間という風が吹いて、世の中が変化する」ことになります。これがファッションを捉える、ひとつの側面だと考えています。(図参照)
2013年春夏テキスタイル傾向 概要
従来春夏の素材傾向といえば、シンプルモダン、プレーン素材が主流を占めてきましたが、ここへきて変化の兆しがみえます。
それは、前シーズンから見えてきた「装飾性」です。従来装飾性は秋冬シーズンにみられる傾向がありますが、SSシーズンに現れるのは久しぶりです。(SSは春夏の略で、以降SSと表記)
- 数シーズン続いたシンプル・プレーンから、レース、刺繍、ビーズ、スパンコールなどの装飾加工や「プレシャス」というキーワードで呼ばれる、宝石のような、きらびやかな感じのビーズ、スパンコールのような服飾付属品を伴った素材がファッションの流れに変化をもたらします。
- 素材面では麻や綿のいわゆる「ベジタル素材」やサマーウールやシルクなどを総称した「ナチュラル素材」
- 世界的に評価されている我が国が得意とするナチュラル感のある「化合繊素材」やここへきて機能性のあるいかにもゴウセン、ゴウセンした「モノフィラ」使いの合繊も注目されます。
(モノフィラ=monofilament=釣り糸のように、単糸が一本の場合) - シルエットの面からはスッキリしたスリム&シャープ ラインより、より「ふっくら」した「ボリューム感」のある方向へシフトしています。しかし、このラインを表現するのは素材そのものだけではなく、「軽く」「透明感」のある素材を、二重、三重に重ねたりしてボリューム感を表現します。
2013/SSシーズンの7つのビッグトレンド
2013年春夏のテキスタイル傾向は以下の7つに括れます。
1. 装飾性(decorative)
2. ナチュラル感(natural)
3. ボリューム感(volume)
4. 軽量感(lightness): 透明感(transparency)
5. 光沢感(shiny)
6. 化合繊(synthetic)
7. プリント(print)
それぞれの特性、そのイメージ写真、及び品質面での取り扱い上の留意点も加味し、以下に解説します。
[装飾性]
- レースや刺繍、スパンコールなどベースに薄手素材。
- サマーツイード素材にスワロスキー、ジュエルストーンを縫い付け、添付した装飾素材
※品質留意点:レース、刺繍など装飾性が高くなれば、比例して多種の糸、素材を使用する頻度も高くなり品質面の管理、ケアが煩雑になるでしょう
[ナチュラル感]
- 綿や麻を中心にナチュラル感のある不完全さが魅力の植物繊維。
- ジャカード、刺繍、など微妙にイレギュラーなモチーフ。
[ボリューム感]
- 滑らかな感触。クレープ。繊細な凹凸。ソフトな洗い加工。ボリューム素材
- ボリューム感のある素材。細番糸使いのしなやか素材。
※品質留意点:製品化された場合、重ね加工が多いためクリーニングなどに特別の注意が必要になる
[軽量感] [透明感」
- 薄手の二重三重ガーゼ、ボイル、ジョーゼットなど
[光沢感]
- 合繊のモノフィラ、光沢糸、サテン織り、コーティングなど軽量素材。
※品質留意点:特にコーティングなど後加工の場合、自然劣化もあるので仕上げ加工の注意と素材説明がポイントになる
[化合繊]
- 合繊100%の機能素材、日本独自の技術の合繊でありながらナチュラル感のある素材。
[プリント]
- シロ/クロ大柄幾何柄
- スカーフ調パネル柄(エンジニアリング柄=あらかじめパターンにあわせてプリントする)
- 伝統的な(ロココ調)柄。
- 無製版デジタル、インクジェットプリント、転写技法によるプリント。
※品質留意点:新しいプリント技法は染料の浸透度が小さく、色に深みが出にくい表面より裏面に問題が出る場合がある、例えば転写プリントの裏は真っ白で折り返すと表に白さが目立つというようなデメリット、しかし、一方デジタルの場合などは無製版のため、レピートは無限で柄合わせに神経を使わなくてよいなど、まだ多々あるが新しいテクノロジーが生まれれば、新しい、メリットデメリットが発生します。トラッドなスタイルが広まっている一方で、ヤング層ではデニムのコンビネゾンや、ブリーチデニムのジャケットなど、デニムを使ったアイテムが取り入れられている。その他にもシャンブレー素材のシャツやワンピースの人気も高い。
後記1
最近都心において、節電による自転車通勤人口が増加していますが、パリでもエコの観点から、同様の現象が増えています。
プルミエール・ヴィジョンでは、「自転車通勤ギアに着目」というような新しい方向性が示され、そのための「蛍光色カラー」や、防風、防水力に優れた「合繊素材」や「加工・技術」の提案などが、従来以上の強い調子で提唱されていました。
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この、「テキスタイルの傾向予測情報」については、春夏篇、秋冬篇の2回を各シーズンのプルミエール・ヴィジョン展&ウニカ展の取材に基づき、掲載の予定です。次回は「2013年秋冬のテキスタイル傾向」10月末予定。
解説:MKプランニング代表 テキスタイルプランナー 小山正夫
後記2
品質管理面からのアドバイス
以上の2013年春夏テキスタイル素材傾向(予測)をうけて、当JFTの試験検査を担当する現場サイドからの品質管理上の留意点をまとめました。この種の情報はこれまであまり前例がありませんが、今後も継続する予定です。何らかの参考にしていただければ幸いです。
1)装飾性、デザイン性が重視されている商品について
この種のデリケートな素材は摩擦や引っ掛け、着用や洗濯の繰り返し等による外観変化が起こりやすい。また縫い目部分に滑脱が生じやすいなどの傾向がありますので、取扱絵表示の決定の際には生地の特性に十分配慮して行ってほしい。
2)ナチュラル感を有する素材の商品
麻などの植物繊維は水に濡れると縮みやすく、また着用や洗濯摩擦によってシワ、縮みになりやすい性質があります。また、色の濃い商品は摩擦で色が落ち、徐々に白っぽくなります。これらの理由から取扱絵表示を決めるときには、ネット使用と表示することをお奨めします。
3)ふっくらした感じ、軽量感、透明感、光沢感、化合繊素材の商品
これらの商品の共通点としては、素材(糸)の選択から、織(編)組織、染色加工方法に至るまで工夫を凝らし商品の特徴を発揮していることです。
品質管理上の留意点としては
①縫製時の「縫いつれ」「縫い縮み」「シームパッカリング」「縫目スリップ」など
②淡色商品が比較的多いので染色の耐光堅牢度を確認することを忘れない。
③商品の特性をよく確認した上で取扱絵表示を決定する。
④無製版デジタル、インクジェットプリント、転写プリントは合繊生地を使用するものの比率が高い。その注意点は
A.洗濯方法 水洗い(ネット使用) なるべくクリーニング処理をさける。
B.長時間つけ置き洗いや、濡れたままの放置避ける。(色泣きの恐れあり)
C.プリント部分には直接アイロンを当てないこと。また温度設定は組成も考えて決める。
品質管理の現場から
担当者 I.T Y.O